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絶対音感 (新潮文庫)

最相 葉月
売上順位:14842
評価:評価:5.0
発売元:新潮社新潮社新潮社
発売日:2006-04
¥ 620

通常24時間以内に発送
関連ジャンル
文学・評論 全般
文学・評論
ジャンル別

ノンフィクション


評価:5西洋音楽帝国主義の尖兵を斬る
1998年初出。絶対音感を「本来は連続変数である周波数を細かい階層に分け、他との比較なしに個々を弁別できる能力」として定義できるなら、その習得は言語の母音習得と類似の機序によると考えられる(但し脳の担当領野はおそらく異なる)。つまり原理上、臨界期以前であれば誰でも手に入れられる能力であるはずである。本書では、絶対音感についての社会における幻想を解き、その功罪を論じ、絶対音感だけでは音楽が成立しないことを詳細に解説している。各章に総括めいたことは書かれていないから自分で考えざるを得ないが、結論を出さない著者の姿勢は、ここでは評価されるべきだろう。半可通の無責任な主張が長年の教育の混乱を生んだことを、本書はかなりの頁を割いて論じているからである。なお文章は非常に読みやすく、理解に困ることはまずないだろう。多数の参考文献から、著者の苦労が思い遣られる。

ところで、第8章「心の扉」は五嶋みどり・五嶋龍を生んだ五嶋家の教育についての取材報告である。絶対音感の議論との直接の関係は希薄であり、一種の「おまけ」と思われる。しかし、私にはここが辛かった。本章は本来、もっとも肩の凝らない読み物であるのだろうが、私にはある種の類似した体験があるために「怒り」「悲しみ」「嫌悪」の感情が、本章を楽しむことを妨げたのである。この類い稀な姉弟を生み出したからといって、また、子ども達が許しているからといって、私は彼女・彼の母を人の親としても教育者としても許すことができない。賞賛の対象となったのは結果論に過ぎず、母の苦労話のように仕立て上げられたのは構成上やむを得ないにしても、「調教」は人間に対する接し方ではないからである。


評価:5絶対音感は絶対ではない
絶対音感は、ものの振動数が絶対的な値であることを考えれば不思議ではない。
音叉という音合わせに使う道具は、コンピュータでも実現できる。

人間の感覚が弁別閾という相対的な処理が得意なことを考えると、
絶対処理と相対処理がどちらが得意かという問題になる。

それでは、絶対音感がある人が音楽で有利かという幻想を持つ人がいるので、
具体的な情報を提供しようとしていると理解している。

体内に音叉を持っていることが、どれだけ人間に取って幸福なことであろうか。
体内に音叉を持っていることが便利というだけであれば、
では物理的に音叉を持ち歩くのは嫌なことかどうかを考えてはいかがでしょうか。

事例から直接、自分や子供の教育について方針を決めるのではなく、
その子にとって、何を得意であることを自覚すると幸せかで考えて欲しい。




評価:4絶対音感を越えて
クラシックと武満徹の音楽を愛聴しているので、絶対音感について書いてあるこの本を読んでみました。クラシック音楽家には絶対音感を持っている人もそうでない人もいます。その違いを確かめたかったのです。読んでみると絶対音感とは非常にやっかいなもので、それがあるために、まともに音楽を聴くことが出来なくなってしまう人もいるそうです。演奏家も絶対音感のせいで苦しむ場合もある。まさに絶対音感は諸刃の剣だと思いました。演奏家にも絶対音感がある人も無い人もいますが、それを越えたところに音楽の本質があるという著者の意見に賛同しました。すばらしい音楽を作るには、絶対音感よりも重要な要素がある。早期教育で絶対音感を子供に身に付けさせたい親御さんもいると思いますが、そうであるなら子供を音楽家にする責任と覚悟を持つべきです。それほどの事をこの本は提示しています。なかなかに興味深い本でした。登場する音楽家や作曲家のことを知っていないと読みづらいので、星四つとします。


評価:5音楽の「本質」に肉薄
ノンフィクション著作で、聞いた音の音程が正しく分かるという「絶対音感」というテーマだけで、これだけのボリュームの本が書けるものなのかと、見たときには正直ちょっと驚きでした。

が、読んでみて納得できました。

著者がこの本を書くきっかけは、たしかに「『絶対音感』について調べてみたい」ということだったわけですが、それの調べ方が半端ではなく、音楽と音の科学の両方の側面から、きわめて多数の専門家に直接アプローチして様々な知見を引き出し、総合的にまとめようとした結果、最終的には、単に「絶対音感とは何か」というテーマを超え、「音楽とは何か。人はなぜ音楽に感動するのか」にまで踏み込んだ論述がなされるまでになっていました。

しかも、専門家へのアプローチの仕方も、単に断片的に聞きかじるのではなく、作者自身で科学的な内容を咀嚼し、また、音楽家の人生を細部まで調べ、共感を持って接し、そうした上で言葉を紡ぎ出しています。これなら、これだけのボリュームになるのは当然でしょう。

そして、作者のその労苦に釣り合うだけ、ものすごく濃い内容の音楽論であり、しかも同時に実に感動的なドキュメンタリー小説になったのがこの本だと思いました。

不覚にも、僕は文庫になるまでこの本のことは知らなかったのですが、1998年の初刊時にも非常に話題になった本だそうで、それも宜成るかな、です。

絶対音感を巡る、音楽家の様々なエピソードや、科学的な知見の数々も読み応えがありますが、僕にとってとりわけ感動的だったのが、第8章「心の扉」で小説タッチに描かれた、世界的バイオリニスト五嶋みどり一家の人生模様でした。これを読んで、あまりのすさまじさに、打ちのめされた思いでした。

これを読んでしまうと、今まで何気なく聞いていたクラシックも、これからは相当違った聞こえ方になってしまうでしょう。それだけのインパクトのあるエピソードでした。中身は、読んでみてのお楽しみと言うことで、ここには書きません。

文庫で400ページ以上もあり、最近のライトなビジネス書に慣れた身には、やや重い本でしたが、十二分にそれだけの価値のある本でした。音楽好きの人にはもちろん、そうでない人にも、一読を強くおすすめします。